はじめに
2026年、NPO法人 読み継ぐ書物のアクセシブル図書館は、文部科学省に対し、全国学力・学習状況調査をMEXCBTで実施する際のアクセシビリティに関する行政文書の開示を請求した。対象としたのは、字間・行間の変更、文字色・背景色・ルビ色の変更、文字拡大、フォント変更、読み上げと読み上げ箇所のハイライト、キーボードのみによる操作である。
この記事では、開示請求書、文部科学省の開示・不開示決定通知書、および開示された文書から確認できる事実を整理する。
また、全国学力調査CBTについて得られた回答を、文部科学省がデジタル教科書について示しているアクセシビリティ施策と比較する。
結果の概要
| 項目 | 全国学力調査MEXCBTについての開示結果 | デジタル教科書について文部科学省が示していること |
|---|---|---|
| 字間・行間の変更 | 機能も代替措置もなく、専門的検討・比較も実施していないとして、文書不存在による不開示 | 2011年の実証研究は、字間・行間を個人の特性やニーズに応じて変更・調整する有効性に言及。2023年の「学習者用デジタル教科書標準仕様書」は行間変更機能を明記 |
| 文字色・背景色・ルビ色の変更 | 機能も代替措置もなく、専門的検討・比較も実施していないとして、文書不存在による不開示 | 2026年の「障害等による学習上の困難の軽減について」は、現行のデジタル教科書についてアクセシビリティ機能の標準実装を求めているとし、背景・文字色の変更・反転を例示。実証研究でも色変更を有用な機能として整理 |
| 読み上げ・読み上げ箇所のハイライト | 機能も代替措置もなく、専門的検討・比較も実施していないとして、文書不存在による不開示 | 2026年の「障害等による学習上の困難の軽減について」は、現行のデジタル教科書におけるアクセシビリティ機能として音声読み上げを例示。実証研究では読み上げ箇所のハイライトも有用な機能として整理 |
| 文字拡大 | 「拡大文字問題プログラム」などに関する文書を開示。端末のアクセシビリティ機能がどの程度使えるかは各学校で確認するよう求めている | 2026年の「障害等による学習上の困難の軽減について」は、現行のデジタル教科書におけるアクセシビリティ機能として拡大を例示。実証研究でも拡大を有用な機能として整理 |
| フォント変更 | フォント変更の記述がない概要資料を開示。適切な文書の特定と開示を求めて審査請求中 | 2023年の「学習者用デジタル教科書標準仕様書」は文字の書体変更機能を明記 |
| キーボードのみの操作 | JIS X 8341-3:2016のキーボード操作可能性を要件としていることを示す文書、およびキーボードのみで利用できることを確認・検証した文書を作成・取得しておらず、保有していないとして不開示 | 開示請求は学習者用デジタル教科書も対象としていた |
1. 字間・行間を変更する機能
開示請求では、字間と行間を児童生徒の特性(視覚障害、発達障害等)に合わせて変更する機能について、次の事項を含む行政文書を求めた。
- 機能の有無と仕様
- この機能を必要とする受験者の把握状況
- 実装または非実装の判断に至る検討資料
- 字間・行間の調整が障害に与える影響についての調査・専門的検討資料
- デジタル教科書の機能との比較資料
- 機能を提供しない場合の代替措置と、その妥当性を示す資料
文部科学省は2026年3月23日付けの行政文書不開示決定通知書(7文科教第2076号)で、次の理由を示した。
当該機能およびその代替措置が無く、専門的検討・比較も実施していないことから、文書不存在のため、不開示とする。
したがって、この決定からは、全国学力調査のMEXCBTについて、字間・行間変更機能がないこと、代替措置がないこと、専門的検討・比較が実施されていないことが確認できる。
一方、文部科学省が2011年に掲載した「発達障害等の障害特性に応じた教材・支援技術等の実証研究」では、読み書きに困難のある児童生徒が使うデジタル教材について、縦書き・横書き、字間、行間、文字サイズを一人一人の特性やニーズに応じて変更・調整できることが有効であると述べている。
また、2023年の「学習者用デジタル教科書標準仕様書」では、行間を変更する機能が記載されている。
2. 文字色・背景色・ルビ色を変更する機能
開示請求では、文字色・背景色・ルビ色を児童生徒の特性(視覚障害、弱視、読字障害等)に合わせて変更する機能について、機能の有無と仕様、必要とする受験者の把握、実装判断、色の選択に関する専門的検討、デジタル教科書との比較、代替措置などを示す文書を求めた。
文部科学省は2026年3月17日付けの行政文書不開示決定通知書(7文科教第2035号)で、次の理由を示した。
当該機能およびその代替措置が無く、専門的検討・比較も実施していないことから、文書不存在のため、不開示とする。
したがって、この決定からは、文字色・背景色・ルビ色を児童生徒の特性に合わせて変更する機能がないこと、代替措置がないこと、専門的検討・比較が実施されていないことが確認できる。
一方、文部科学省初等中等教育局教科書課が2026年8月18日に公表した「障害等による学習上の困難の軽減について」は、現行のデジタル教科書について、標準仕様書上でアクセシビリティ機能の標準実装を求めているとしている。その具体例として「背景・文字色の変更・反転」を示している。
2026年の「障害等による学習上の困難の軽減について」は、これまでの実証研究事業において、障害の種類別に学習上の困難の軽減に有用な機能等の例を整理し、障害等のある児童生徒を担当する教員へのヒアリングによって実践レベルでの有用性を確認してきたとしている。その中で、視覚障害について「色変更」を有用な機能として挙げている。
ただし、ルビ色だけを独立して変更する機能については、これらの資料からは確認できない。
3. 読み上げと読み上げ箇所のハイライト
開示請求では、問題文等のテキストを音声で読み上げる機能と、読み上げ箇所を視覚的に示すハイライト表示機能について、機能の有無と仕様、両者の同期、必要とする受験者の把握、実装判断、デジタル教科書との比較、代替措置などを示す文書を求めた。
文部科学省は2026年3月19日付けの行政文書不開示決定通知書(7文科教第2070号)で、次の理由を示した。
当該機能およびその代替措置が無く、専門的検討・比較も実施していないことから、文書不存在のため、不開示とする。
この決定からは、請求対象とされた読み上げ機能とハイライト表示機能、およびその代替措置がなく、専門的検討・比較も実施されていないことが確認できる。
一方、2026年の「障害等による学習上の困難の軽減について」では、現行のデジタル教科書について「音声読上げ」がアクセシビリティ機能の一つとして示されている。
さらに2026年の「障害等による学習上の困難の軽減について」が整理する実証研究の結果では、「朗読・音声読み上げ」に加えて「朗読・読み上げ箇所のハイライト」も有用な機能として挙げられている。
したがって、読み上げだけでなく、読み上げ箇所を視覚的に示す機能についても、文部科学省のデジタル教科書に関する施策・研究の中ですでに扱われている。
4. 文字を拡大する機能
文字拡大については、文部科学省は2026年3月23日付けの行政文書開示決定通知書(7文科教第2080号)により、次の2文書を開示した。
- 「令和8年度全国学力・学習状況調査」担当者会議(2025年12月12日開催)資料2-4「令和8年度全国学力・学習状況調査における特別な配慮について」
- 2026年1月16日付け事務連絡「令和8年度全国学力・学習状況調査において特別な配慮を必要とする生徒のためのCBTサンプル問題(中学校英語)のMEXCBTへの搭載について」
資料2-4には、視覚障害のある生徒向けの「拡大文字問題プログラム」をCBTで作成・配信することが記されている。中学校英語のサンプル問題についても、通常版とは別に、拡大文字問題、ルビ振り問題、スクリプト表示問題が用意された。
これは、通常の問題の文字サイズを受験者が変更する方式ではなく、あらかじめ作成した別の「拡大文字問題」を提供する方式である。
資料2-4は、必要に応じて、児童生徒が日常使用している入出力支援装置や端末のアクセシビリティ機能を活用することも挙げている。例示されているのは、音声読み上げ、ピンチ操作、反転・リフロー表示、フォント・コントラスト変更などである。その一方で、問題文がテキストデータではなく画像データで示される設問など、これらの機能に対応できない設問もあるとしている。
文部科学省は、サンプル問題を使い、普段利用している支援装置や端末機能が「どの程度使用できるのか」を各学校で確認し、調査実施時の対応方法を検討するよう求めている。また、これらの機能に対応できない設問もあるとしている。
これに対して、2026年の「障害等による学習上の困難の軽減について」では、現行のデジタル教科書について「拡大」をアクセシビリティ機能の一つとして示している。
また、2026年の「障害等による学習上の困難の軽減について」が整理する実証研究の結果でも、拡大は障害等による学習上の困難を軽減するための機能として扱われている。
5. フォントを変更する機能
フォント変更についての開示請求では、児童生徒の特性(視覚障害、弱視、読字障害等)に合わせてフォントを変更する機能について、機能の有無と仕様、必要とする受験者の把握、実装判断、フォント選択に関する専門的検討、デジタル教科書との比較、代替措置などを示す文書を求めた。
文部科学省は2026年3月17日付けの行政文書開示決定通知書(7文科教第2032号)で、「令和7年度以降の全国学力・学習状況調査(悉皆調査)のCBTでの実施について【概要】令和8年1月改定」を開示対象として特定した。しかし、この文書にフォント変更機能についての記述は見当たらない。
一方、2023年の「学習者用デジタル教科書標準仕様書」は、ビューアの機能として文字の書体を変更する機能を記載している。したがって、書体変更は、文部科学省がデジタル教科書についてすでに具体的に扱っている事項である。
このため、請求内容に対応する文書が特定されていないとして、決定の取消しと適切な文書の特定・開示を求める審査請求を行った。
文部科学省は、審査請求にたいする意見書で以下のように述べた。
改めて再度文書探索を行ったが、開示請求書で請求のあった、「令和7年以降の全国学力·学習状況調査をMEXCBTを用いて実施するにあたり、フォントを生徒児童の特性(視覚障害、弱視、読字障害等)に合わせて変更する機能」に関して検討した文書は確認されなかった。
この意見書に対しては、当法人からも意見書を提出する予定である。
6. キーボードのみによる操作
キーボード操作については、普通学校(特別支援学校を除く)に在籍する児童生徒が使用するMEXCBTについて、次の文書を請求した。
- JIS X 8341-3:2016の達成基準2.1.1「キーボード」と2.1.2「キーボードトラップなし」を満たすことを要件としているかを示す文書
- 視覚障害等により支援技術を利用する児童生徒が、キーボード操作のみでMEXCBTを利用できることを確認・検証した文書
文部科学省は2026年3月31日付けの行政文書不開示決定通知書(7文科初第2857号)で、次の理由を示した。
請求文書を作成・取得しておらず、保有していないため不開示としました。
なお、開示請求書では学習者用デジタル教科書とMEXCBTの両方を対象としていたが、文部科学省において二つの案件に分けて処理された。本節では、そのうちMEXCBTについての開示結果を扱う。決定通知書が「不開示決定した行政文書の名称」として記載した対象はMEXCBTである。本記事では、決定通知書に即してMEXCBTについて記述した。
文部科学省の既存施策との関係
文部科学省がデジタル教科書のアクセシビリティについて知見を有し、具体的な機能を標準仕様に盛り込んできたことは、既存の資料から確認できる。
文部科学省初等中等教育局教科書課が2026年8月18日に公表した「障害等による学習上の困難の軽減について」は、現行のデジタル教科書について、標準仕様書上でアクセシビリティ機能の標準実装を求めることにより、障害等による学習上の困難を軽減していると説明している。具体例として、拡大、ルビ振り、色反転、リフロー表示、音声読み上げなどを挙げている。
さらに2026年の「障害等による学習上の困難の軽減について」は、これまでの実証研究事業において、障害の種類別に学習上の困難の軽減に有用な機能等の例を整理するとともに、障害等のある児童生徒を担当する教員へのヒアリングを行い、実践レベルでの有用性を確認してきたとしている。そこでは、色変更、拡大、音声読み上げ、読み上げ箇所のハイライトなどが具体的に取り上げられている。
また、2011年の「発達障害等の障害特性に応じた教材・支援技術等の実証研究」では、字間・行間・文字サイズ等を個人の特性やニーズに応じて変更・調整することの有効性に言及し、2023年の「学習者用デジタル教科書標準仕様書」では、書体変更や行間変更なども具体的に扱われている。
一方、全国学力調査のMEXCBTについては、字間・行間、配色、読み上げとハイライトに関して、機能も代替措置もなく、専門的検討・比較も実施していないとする不開示決定が出された。文字拡大には通常版とは別の拡大文字問題が用意され、端末側のアクセシビリティ機能の利用可能性は各学校で確認する仕組みになっている。フォント変更は審査請求中であり、キーボード操作については、要件化や確認・検証を示す文書が保有されていない。
まとめると、デジタル教科書では標準実装を求め、実証研究によって有用性を確認してきたアクセシビリティ機能や知見が、全国学力調査CBTの要件定義、実装、検証にどのように反映されたのかは確認できない。
資料
開示請求および決定通知
- 「字間行間変更機能(開示請求)」および行政文書不開示決定通知書(7文科教第2076号、2026年3月23日)
- 「色変更機能(開示請求)」および行政文書不開示決定通知書(7文科教第2035号、2026年3月17日)
- 「読み上げとハイライト(開示請求)」および行政文書不開示決定通知書(7文科教第2070号、2026年3月19日)
- 「文字拡大機能(開示請求)」および行政文書開示決定通知書(7文科教第2080号、2026年3月23日)
- 「フォント変更機能(開示請求)」、行政文書開示決定通知書(7文科教第2032号、2026年3月17日)、審査請求書、及び文部各省意見書
- 「キーボードのみによる操作(開示請求)」および行政文書不開示決定通知書(7文科初第2857号、2026年3月31日)
開示された文書
- 「令和7年度以降の全国学力・学習状況調査(悉皆調査)のCBTでの実施について【概要】令和8年1月改定」
- 「令和8年度全国学力・学習状況調査における特別な配慮について」(資料2-4)
- 「令和8年度全国学力・学習状況調査において特別な配慮を必要とする生徒のためのCBTサンプル問題(中学校英語)のMEXCBTへの搭載について」(2026年1月16日)